綻び

「…という感じで進めていきたいと思う。状況にしたがって多少の変更はあると思うけど基本的には…」
「宅急便でーす」
「はいはい、今行きます」

あゆむが席を外すと頭がAに話しかける。

「なぁ、やっぱり俺は『引くことの零』が欲しいんだ」
「だけど、あゆむが”ユ○ノさんが手に入れてないのに僕達が手にするわけにはいかない”って言ってたじゃない? 頭も納得してたんじゃないの?」
「あぁ、確かにあの時はそう思った。憶えている。だが今になってみると、"どうしてあの時そう思ったのかわからない”んだ、お前さんはどうだい?」
「僕もコミックへの入札が少ないことが不満なんだ、今は。どうしてなんだろう? この間は確かに”それでいい、それしかない”って思っていたのに」


3人の経験は"合体"時に共有される。オプショナル人格に若干の差異はあるもの基本人格は全く同一な3人は、合体時には思考はほぼ平均化される。だがこの秋一イベントシュミレートに忙しかった3日間、彼らは合体することを"忘れて"いる。かつてないほど長時間の独立行動に3人の思考は分化(いや、進化と呼ぶべきだろう)したらしい。

「なぁ、ホントにあの3点狙いでいいのか? もっとおにゃのこが出てくるポンチ絵が欲しくないのか?」
「…欲しいっ!! そうだよ、なんであゆむの言いなりにならなきゃいけないんだ。僕はあゆむの操り人形なんかじゃないっ!!」
「よくぞ言った。俺も、『引くことの零』を持って帰ってお美代*1に見せてやるんだ、きっと喜ぶぞ。あいつの細い指には単行本は重すぎる。どうしても…、そうさ、どうしても、文庫がいるんだ。そうさ、そんためになら鬼にだってならぁ。
なぁ、ひとつ相談なんだが明日の朝早起きしてはぶの電源を…」


あゆむが戻ってくる。
「いやぁ、やっと届いたよ、スタレビの25周年ライブDVD。6時間だよ、6時間。今から見る? (2人の様子がおかしいのに気付き)どしたの? 二人とも」
「あ〜、なんでもない、その…、そうだね、見よう、DVD」
「”すたれび”とは何だ?喰えるのか?」(※もうこの発言で記憶共有化設定ぶち壊し)

いったいどこへ行くのか、この三匹。決戦は明日。

1 草上仁『時間不動産』ハヤカワ文庫JA 50
2 小川一水『群青神殿』ソノラマ文庫 50
3 むっちりむうにい『ぱらりらろまん』ブロスコミックス 2
4 鳥井加南子『オンラインの微笑』新潮文庫 10
5 伊藤伸平『はるかリフレイン』白泉社 7
6 伊藤伸平『少女探偵』徳間書店 5
7 広瀬正『マイナス ゼロ』集英社文庫 2
8 高齋正『ランサーがモンテを目指す時』徳間文庫 2
9 K.W.ジーター『ブレードランナー2』ハヤカワ文庫SF 0
10 神林長平敵は海賊 正義の眼』ハヤカワ文庫JA 1
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*1:『誰だ、お美代って?』